ビジネスの現場でよく耳にする「当事者意識を持て」という言葉。経営者や管理職が社員に向けてこの言葉を投げかける光景は珍しくありませんでした。しかし、冷静に考えてみると、この「当事者意識を持つ」というスローガンが、実際に会社の成長や成功につながった例はどれだけあるのでしょうか？

「当事者意識」とは、会社の課題や目標をまるで自分のことのように感じ、主体的に取り組む姿勢を意味します。しかし、そもそも経営の専門知識や戦略的な視点を持たない一般の社員にとって、会社全体を見渡し、自分の行動をどう結びつけるかを考えるのは至難の業です。

当事者意識を持つことは一見良さそうに思えます。しかし、それが「会社全体の動きを理解し、具体的な行動につなげる」というレベルにまで達しなければ、単なる精神論に終わります。例えば、次のような現実的な問題があります：

• 情報の非対称性：経営側が持っている情報と社員が持っている情報にはギャップがあります。これを埋めない限り、「何をすれば会社に貢献できるのか」すら分かりません。
• スキルや知識の不足：経営や財務の知識がない社員が、「会社全体をどうすべきか」を考えるのは現実的ではありません。
• 責任の分散：当事者意識を過度に求めると、逆に「全員が少しずつ責任を負う」形になり、誰も本当の行動に踏み出さないリスクがあります。

「当事者意識」は、あくまで“意識的なもの”に過ぎません。それよりも重要なのは、社員が自分の業務を「会社全体の目標にどう結びついているか」を明確に理解し、それに基づいて具体的な行動を取れるようにすることです。以下のステップが重要です：

1. 会社のビジョンと目標を具体化する
   経営者やリーダーは、会社として達成すべき結果を明確に示す必要があります。曖昧な目標ではなく、定量的で分かりやすい目標を設定しましょう。

2. 社員が自分の役割を理解する
   その目標を達成するために、各社員の業務がどう位置づけられるのかを具体的に示します。

3. 行動計画と評価基準を整備する
   社員が取るべき具体的な行動と、その結果をどう評価するのかを明確化します。これにより、行動が成果に結びつく仕組みが整います。

社員が「当事者意識を持つかどうか」は、結果として大きな問題ではありません。それよりも、社員一人ひとりが、自分の業務が会社の成功にどのように貢献するのかを理解し、それを基に行動できるようにすることが重要です。

会社の成功とは、「社員全員が一致団結して努力する」という抽象的な話ではなく、具体的な目標を達成するために必要な行動を実行し、確実に成果を出していくプロセスの積み重ねです。